「ニューヨーク物語/ビリー・ジョエル」 76年 評価4.5
本作を発表した時のビリーは、『ピアノ・マン』でキャシュボックス誌の最優秀新人賞を獲得したものの、次作『ストリートライフ・セレナーデ』という凡作で”一発屋”という印象をもたれてしまったものと考えられる。そのため、本作は全米チャートで100位にも入らないという彼にとって最低のチャートアクションを記録してしまった作品である。
しかし、今でこそ認識が変わっているが、傑作である。本作からは、前作までのプロデューサーに愛想を尽かし自身でプロデュース。スタジオ・ミュージシャンではなく、自身のバンドを組んだことで、音の懲りようが違うし、ストリングスアレンジやサックスの使い方等、今までのバックとは雲泥の差。ある意味、自分のキャラクターをここまで掴んでいたのかと感心する。
なんといっても思い出深いのが名曲「ニューヨークの想い」。大学生だった時に単身ニューヨークに旅行した際、ケネディ空港からマンハッタン島に向かうバスの中、迫り来るニューヨークの摩天楼を見ながら、この曲のもつ雰囲気がいかにニューヨークにぴったりかを思い知ったものだ。そのほかにも叙情的な「ジェイムス」や「楽しかった日々」、『グラス・ハウス』に通じるロック調の「さよならハリウッド」など、多少荒削りでありながら後のビリーの成功を予感させる良作が多いとともに作品としてのトータル性も高く、間違いなくビリーの最初の傑作といえよう。